「Revelations」,「Inside-Out」

2011年2月1日

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Revelations」ダイアン・アーバス
Inside-Out」 井上 廣子
社会福祉学部 保健福祉学科 教授 小泉 純一

 
 
 
今回私が紹介する本は二つの点で今回の企画の前提を裏切っているかもしれません。
一つは、「一冊」ではなく「二冊」を選んでいること。弁解すると、二冊は同じ視点で撮られています。
もう一つの裏切りは両方とも作者は写真家で、写真集であることです。
写真集ですから字は書いてありません。でも、製本してありますから、書物ではあります。
一冊目の作者はダイアン・アーバス(1923-71)、タイトルはRevelations、日本語にすれば「啓示」という意味です。
これは彼女の死後三十年たって、ほぼ全ての写真集を集めたもので、その全体像が理解できます。彼女はファッション雑誌の写真家としてデビューしたのですが、社会の中でマイノリティとして生きてきた人たち、サーカースの芸人やヌーディストやトランスベスタタイト(異性の洋服を着る趣味の人)、それから表面的には普通に見えるけれども、何か不思議で、異常にも感じられる人たちの写真をとるようになります。
最後の写真集Untitledで彼女が取り上げたのは、知的障害者施設で暮らす女性たちのポートレートです。
お祭りでお面をかぶったり、花飾りのある帽子をかぶって笑う姿など。その笑顔は素敵なのですが、彼女たちを包む寂しげな雰囲気のほうが強く感じられます。
合理的に説明できない、解釈しきれない、割り切れない部分のほうが社会にはたくさん残っていることを彼女は伝えたかったのではないかと思います。写真家ですから、それを言葉で表現するのではなく、イメージで示しています。
ついでに述べておくと、彼女の評伝(「炎のごとく : 写真家ダイアン・アーバス」)は日本語にも翻訳され図書館にも
あります。
もう一つは、彼女はこの写真を取り終えて、自殺しました。

 
 
もう一人の写真家は日本人の井上廣子さん。90年代から注目されるようになってきたアーティストです。
写真集のタイトルはInside-Outです。そこにある写真のほとんどは、人気のない部屋の中から窓越しに、外の風景が写っています。
窓の外に見える木、外のぼんやりした光が強調されたもの、廃墟の室内から向こう側にある壁しか見えない窓、暗い室内と明るい外の対比など、眺めているうちに、部屋の中にかつていた人たちが窓の外を眺めていた視線に自分の視線が重なっていることに気がつきます。
後書きを見ると、その窓は、日本の精神病院の窓、海外のサナトリウム、少年刑務所、ナチスの強制収容所の窓でした。そこに今はいない人たちの視線、痕跡が再現されています。写真家が他者理解を作品にすると、こうなるのだと思います。
この二冊に共通するのは、女性の写真家のしなやかな感受性です。その感受性がどのようにマイノリティと寄り添おうとしているのかが心地よいです。
言葉で読む以外にも、問題を捉えるためには、まず感性を磨くことも大事です。

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