「ヘルプマン!」くさか 里樹

2012年2月1日

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学長補佐 原田正樹

 
 
 
 
「『ヘルプマン』を読まずに介護を語るな!」思わず、そう叫んでしまいたくなる作品です。主人公は恩田百太郎。彼は高校を中退して介護の世界にはまっていきます。彼の一途な正義感とお年寄りと織りなすドラマは、周囲を巻き込んで「老いるとは何か」「介護とは何か」を問いかけます。百太郎は目の前のじじいやばばあに真剣に向き合います。百太郎は高齢者を大切にするとは、高齢者に「様」をつけて呼称することではないことを思い出させてくれます。百太郎と出会った高齢者たちは、それぞれ「自信」を回復し人生を楽しむ喜びを思い出します。家族や近隣は彼の強引な行為に振り回されつつも、「笑顔」を取り戻していきます。
とはいえ、彼はいまだに介護福祉士の国家試験に合格できず…。しかしここに作者の意図があるように思われます。今、行われている介護福祉士養成教育は、果たして「社会正義」や「やわらかな感性」を育てているのかという問題提起です。
作者のくさか里樹さんは、「介護の世界を描きたかったのではなく、人の弱さと優しさを描きたかった」と言います。人間の持つ弱さと優しさが交錯する、その舞台として「介護の現場」があるのでしょう。くさかさんは「介護は創造の場、介護の職員さんたちはアーティストだ」とも言っています。(少し話しが飛躍してしまいますが、かつてS.パワーズがソーシャルケースワークのことを「アート」と表現したことを思い出してしまいました。)
また『ヘルプマン』では、そうしたエピソードが人間ドラマとして描かれているだけではなく、「制度の矛盾」についても読者に投げかけられています。介護保険制度、成年後見制度、介護事業所間の癒着問題、地域包括支援センターや社会福祉協議会等々、介護の現場の抱えている問題について実に多面的にとらえ、本当によく取材されていることがわかります。
ボクが論文にすると何文字も使って表現しなければならないことが、くさかさんは百太郎の表情ひとつで読者に伝えてしまいます。ある意味、マンガに嫉妬を感じながら読みふけってしまいました。
今年、『ヘルプマン』は、第40回(2011年度)日本漫画家協会賞を受賞しました。まさに今の日本を代表するマンガであり、人間の優しさと介護問題の現実を伝えてくれる素晴らしいマンガです。ぜひ『ヘルプマン』を読んで、みんなで「介護」について語りませんか。

1件のコメント

  1.  高知県出身、在住の漫画家さんです。くさか里樹=草刈り機から命名されてるとかされてないとか。いかにも、自然あふれる土佐って感じですね。
     恥ずかしながら、まだ「ヘルプマン」を読んだ事はありません。私の中では、高知新聞では、ちょくちょく名前と写真を見る機会があるな。という程度の認知度でした。
     昨年、私の職場(高知型福祉 あったかふれあいセンターいちいの郷)に、取材で来てくださいました(http://itiinosato.exblog.jp/m2011-06-01/)。利用者の方と会話される時も、目線にしゃがみこんで寄り添ってお話して下さる気さくな方でしたよ。『ヘルプマン』、ぜひ、読んでみたいと思います。

    コメント by Miki Suyama — 2012年2月5日 @ 12:24 AM

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