「オフサイドはなぜ反則か」中村 敏雄

2012年2月15日

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子ども発達学部 吉田文久

 
 
 
私が紹介する本は中村敏雄著の『オフサイドはなぜ反則か』という本です。サッカーやラグビーというスポーツ特有のルールとして「オフサイド」という名前を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか?「ボールを勝手に前に進めてはいけないという奇妙なルールがなぜあるのですか?」と生徒から出された素朴な疑問に体育教師であった中村先生が本一冊をかけて解き明かした秀作がこの本です。
「このオフサイドというルールがあるために、点が取りにくく、見ていてつまらない」という声が寄せられ、また誤審の疑いからルール撤廃の議論も起こっているようですが、この本を読むと、オフサイド・ルールをなくすと、サッカー、ラグビーではなくなってしまうと思うようになります。サッカーはそもそも1点先取のゲームとして行われ、半日あるいは一日かけて行われていました。一年に数回の楽しみをそんなに簡単に終わらせたくない(長時間享受)、つまりどちらかが1点取るとゲームが終わってしまうので、そうさせない工夫としてオフサイド・ルールが考え出されたのです。また、ゴール前で「待ち伏せ」し、点を決めるのは「汚い行為」であり、ジェントルマン・マンシップに欠けるプレーとして非難されたということもあるようです。かつて町全体をコートにして行われていたときにはルールなどなく、オフサイドの反則もありませんでした。その後コートは空き地へ、そして校庭へと移ることにより、オフサイドというルールが整備されていきました。それは、産業革命をはじめとする社会変化、人々の生活意識の変化と密接に関係していると中村先生は解説しています。
さらにこの本は、スポーツの一つのルールの歴史をたどりながら、英国人の「自由と規律」の精神を読み解くヒントを与えてくれます。
残念ながら中村先生は、2011年3月にこの世を去りました。中村先生は私に、「体育教師はスポーツの技術だけ教えていていいのですか?」と問いかけ、スポーツ文化研究の道に導いてくれた恩師です。スポーツという文化には豊かな内容がある、このことを子どもたちに伝えていく責任が体育教師のみならず人々にはあるのだと説いています。「ラグビーボールはなぜ楕円形なのですか?」という疑問を解き明かしたのも中村先生のこだわりの延長です。スポーツに興味のある人に限らず、人間・社会・文化の関係を学ぶ人にも一読の価値のある一冊だと思います。
※この書籍は、1985年の初版と2001年の増補版があります。本学図書館には「初版」が、美浜町と半田市の図書館には「増補版」の蔵書があります。なお、どちらも品切れのため、書店では取り扱いをしておりません。

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