司法改革

2012年2月22日

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福祉経営学部 大竹秀樹

 
 
 
 
皇居を望む一角に、その凸凹に富む外観から「奇岩城」と呼ばれる巨大な建造物がそそり立っている。さらに、それは三権の一つである司法権を代表する建造物として国会議事堂と同じ高さに揃えられている。言うまでもなく、最高裁判所庁舎である。
さて、本書は、いわゆる松本清張、森村誠一の著作に代表される社会派推理小説である。司法改革に反対するエリート裁判官とその黒幕たちの殺人事件を暴こうとするテレビ局ディレクター(新藤文彦)と彼の遺志を継いだ恋人・女性アナウンサー(和泉香苗)と弁護士(青井重之)の活躍をめぐる物語である。名探偵や名刑事は登場せず、彼らの地道な調査によって犯人をあぶり出していく手法である。著者の巧妙な構成、丹念な調査と取材、そして主人公たちの正義感と勇気が読む者に上質な興奮と読後の爽快感を与えてくれる。
著者は、本書の中で、司法改革の重要性を訴えると同時に、多くの裁判官がそれになかなか腰を上げようとしないため、裁判官を抵抗勢力として描いている。物語の冒頭は最高裁判所の組織とそこで働く裁判官の実態から始まる。憲法の規定上、最高裁判事は15人(その一人が長官)と言われているが、実は彼ら以外に約130人の裁判官が勤務していることはあまり知られてない。そして、その中でも全国の裁判所を統括する司令部的な役割を担い、人事権や予算権を掌握している最高裁事務総局に勤める事務方の裁判官がエリート中のエリートであり、更にその一部が学閥のもとに司法官僚として司法行政を執り行い君臨していることが、明らかにされる。
しかし、著者は、最高裁が昇給と転任を武器として全国の裁判官を統率するなかで、現場の裁判所で職人のように着々と、一年間に200件余りの事件を神経をすり減らしながら処理せねばならない大多数の裁判官の実情も好意的に描いている。裁判官制度の両面を紹介することにより、著者は読者に構造改革や行政改革よりもなじみの薄い司法改革への関心を高めるようにメッセージを発している。
「公僕」として社会正義の実現のために黙々と働く勤勉な公務員に注ぐ著者の眼差しは温かい。警察上層部のキャリア官僚が捜査指揮権や人事権を掌握する警察機構の中で、警察官としての正義感と使命感を抱きながら、有形無形の圧力を撥ね斥けて「正義の味方」「市民の用心棒」(森村誠一)として事件の真相に迫っていく下積み刑事を主人公にした警察小説は、著者の十八番である。著者の小説のおもしろさは、「単に警察官が配役として登場するだけの推理小説」(著者本人の弁)ではなく、権力の持つ魔力やおいしさを自覚しつつ、昇進や栄誉に背を向けて、時にはその権力を活用して真実を追い求める下積み捜査員を主人公として登場させた点にあろう。主人公の活動を通して閉鎖的な警察内部の隠蔽性やエリート特権階級の自己保身が描き出され、舞台となる大阪の風情も織り込まれており、読み進むうちに思わず時間を忘れてしまうのである。
『刑事(デカ)長(チョウ)』『刑事長 越権捜査』『密命副検事』(講談社文庫)などお薦めです。

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