「マボロシの鳥」太田光
2011年3月23日
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研究課 職員 増村紘子
この本は爆笑問題の太田光さんが書いた小説です。
太田さんは、漫才コンビ「爆笑問題」のボケを担当する傍ら、エッセイや『向田邦子全集』の解説を手がけるなど、作家としても注目されている方ですが、彼による初めての小説が、この「マボロシの鳥」です。
年齢は全然違うのですが「うちのおじいちゃんに骨格が似ている!」と、私は勝手にかなりの愛着を持って太田さんの事を応援してきました。彼の、はちゃめちゃな事を言ったりするのにまじめで少し照れ屋なところや、テレビ番組で政治や社会の仕組みについて話しているときの一生懸命なところが好きで、そんな太田さんはどんな小説を書くのだろう、と、とても楽しみにしていました。
この本は短編集になっていて、「戦争」や「テロ」や「魔女狩り」といった、なかなかヘビーなテーマのものが多くあります。これらは生活している中で直面する事はあまりない事柄ですが、誰もが色々と思うところがあるものだと思います。
戦争やテロのニュースを見たときには何だか色々と考えてしまいます。けれど、どうしたらいいのか見当がつかず、テレビで映像を見ても本当の出来事だという実感も持てなくて、あまり悩んでしまうと疲れて「私が考えてもどうしようもないか」と現実逃避してやり過ごしてしまいます。
しかしこの本を読むと、作者がそんな事ひとつひとつを「どうにかしたい!」と真剣に考えている事がとても伝わってきます。深い問題についての話でなくても、普段生活していて感じる矛盾などについて彼が考えている事もたくさん出てきます。全体的にまじめ(?)な感じがするのですが、たまに文章のつなぎ部分などに照れ隠しのように「クルリンパ」などの言葉が入っていたりして、それがまた小説を親しみやすい感じにしていて、さらに、そこで“抜く”感じが作者独特の魅力であると思います。
物語のどれもがとてもおもしろいです。短編集ですので、途中で間が開いてしまっても「話忘れちゃったからまた初めから…」という心配もありません。
テレビでよく知られている芸能人の手掛けた小説なので学生の皆さんにも親しみやすいのではないかということもあり、この作品を少し紹介してみました。自由勝手な振る舞いをあしらわれがちな太田さんですが、この小説を読んで彼の真剣な気持ちを知ればきっと応援したくなると思います。是非たくさんの方にこの本を読んで頂き、ユニークな視点と才能をもった太田光さんの味方が増えたら良いなと思っています。
「天の瞳」灰谷健次郎
2011年3月15日
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国際福祉学部 准教授 佐藤慎一
灰谷 健次郎 角川書店 2002-08
前職で教育関連のプロジェクトに携わることになった際、上司から何気なく薦められたのがこの本でした。本書は小説ですが、教育問題はもちろんのこと、どのような姿勢で仕事をしていくか、また、大げさかもしれませんがどのように生きて行くかといったことに関して、深く考えさせられる内容となっています。
以上のように紹介すると「難しいのでは?」という印象を持たれるかもしれませんが、まったくそんなことはありません。いったん読みはじめると、個性的な登場人物により繰り広げられる魅力的なストーリにのせられ、どんどん読み進めてしまうことでしょう。
主人公は悪ガキ「倫太郎」とその仲間たち。ストーリは保育園からはじまり、周囲の人達との触れ合い・ぶつかり合いを通じて成長していきます。主人公に加えて、周囲の人達がこれまた魅力的なのですが、私が特に印象に残っているのは、倫太郎の「じいちゃん」です。
じいちゃんの話は渋くて味があり、悪ガキ倫太郎もこのじいちゃんの話は大好きで真剣に聞き入ってしまいます。どんな味わい深い言葉が出てくるかは、ぜひ本書を手にとって確かめてもらえればと思います。
その他にも、知的障害のある「シュウ」、一風変わった中学教員の「ナンデスネ」などなど、個性的・魅力的な人物が登場し、飽きることがありません。彼ら・彼女らの視点・考え方には、ハッとさせられることも多いでしょう。
幼年編1・2、少年編1・2、成長編1・2、あすなろ編1・2と8冊に分かれていますので、まずは幼年編を読んでみてもらえたらと思います。作者が本書執筆途中で亡くなられ、9冊目「最終話」が出版されてはいるものの、ストーリとしては完結していません。
それでもなおお薦めしたい一冊です。
「思考の整理学」外山滋比古
2011年3月1日
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教育開発室 職員 藤井愛子
外山 滋比古 筑摩書房 1986-04-24
「東大・京大で一番読まれた本」という文庫本の帯に惹かれ、思わず購入した本です。
著者はお茶の水女子大学文学部の名誉教授 外山滋比古氏です。
この方は英文学の先生で、エッセイストとしても活躍されています。
書名からはカタそうな本・・・という印象を受けますが、読んでみると意外にも面白く、あっという間に読めてしまいます。
大学の先生が執筆したこともあり、学習や論文を書くのに役立つ知識が得られます。
私は大学を卒業した後でこの本を読んだのですが、学生時代に読んでいたら良かった…と後悔しました。
本の中では、考えをまとめるための様々なテクニックや良いアイデアを生むためのヒントが紹介されています。
たとえば・・・・
*何か考えが浮かんだら、思考の整理のためにそれを寝させること
*仕事は朝にするのがベストである
*話を聞いている最中はメモはとるな
*ものを考えるときはあまり緊張せず、心をゆったり自由にさせること
*論文等を書くために知識を蓄積しようとするとき、関連書籍を集めるだけ集めるまでは読み始めないこと
などなど、早速実践してみたくなってしまうものが数多くありました。
これまで自分がやってきたことはかなり間違っていたのだ…と、自分の行動を省みて色々と思い知らされました。
学生さんに(もちろん社会人の方にも)ぜひ読んでもらいたいです。
さて、本の中では「すてる」という項があります。
ここで言われていることは、不必要な情報や書籍はすてるべきだとのことなのですが、昨年末に自宅で不要な本を処分するため書物の整理をしていた際、この文庫を捨てることはできませんでした。この本は、私の手元に置いておきたい一冊なのです。