「全国アホ・バカ分布考―はるかなる言葉の旅路」松本修

2011年2月22日

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経済学部 准教授 谷地 宣亮

 
 
 
「探偵! ナイトスクープ」に視聴者から寄せられた依頼がきっかけで誕生したのが本書です。
依頼内容は、「私は大阪生まれ、妻は東京出身です。二人で言い争うとき、私は『アホ』といい、妻は『バカ』と言います。耳慣れない言葉で、お互い大変に傷つきます。ふと東京と大阪の間に、『アホ』と『バカ』の境界線があるのではないか?と気づきました。地味な調査で申し訳ありませんが、東京からどこまでが『バカ』で、どこからが『アホ』なのか、調べてください」というもの。
「『全国アホ・バカ方言分布』の謎をさぐる、のべ三年にわたる調査と研究の過程の、率直なドキュメンタリー」である本書の内容は 、いたって“大真面目”です。
都(=京都)を中心に同じ言葉が同心円を描いて分布している、というのが柳田國男の方言周圏論(『蝸牛考』)。都で生まれた新語は「東西南北あらゆる方向に向けてほぼ等しく、平均すれば一年間に」「およそ一キロメートル」伝播したそうです。筆者は、方言周圏論が成立すること、そして、「アホ」が新しい言葉で「バカ」が古い言葉であることを明らかにします(他にも、全国のアホ・バカ表現が多数登場)。さらに著者は、古い文献を丹念に調べ、「アホ」と「バカ」の語源をも探り当てます。
本書は読み物としておもしろいことはもちろんですが、ここで紹介する理由はそれだけではありません。「言語学や方言学について、ズブの素人」である番組プロデューサーが、古辞書類を調べたり研究者の指導を受けたりしながら知的好奇心を追究する姿を見て、何かを感じ、何かを学んで欲しいと思ったからです。
また、身近なところにいろいろな疑問が存在することにも気づいて欲しい。一見「アホらしい」あるいは「バカバカしい」題材でも、料理の仕方次第で立派な研究になるのです(著者は、本書のもととなる調査・研究を「日本方言学会」で発表)。このことがわかれば、卒論やレポートのテーマ探しも少しは楽になるのではないでしょうか。
※「どんくさい」「マジ」「・・・・・・、みたいな。」「キレる」「おかん」などの言葉を全国区にしたのは誰でしょう? 知りたい人は、同じ著者の『「お笑い」日本語革命』(新潮社、2010年)を読んでください。

「Revelations」,「Inside-Out」

2011年2月1日

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Revelations」ダイアン・アーバス
Inside-Out」 井上 廣子
社会福祉学部 保健福祉学科 教授 小泉 純一

 
 
 
今回私が紹介する本は二つの点で今回の企画の前提を裏切っているかもしれません。
一つは、「一冊」ではなく「二冊」を選んでいること。弁解すると、二冊は同じ視点で撮られています。
もう一つの裏切りは両方とも作者は写真家で、写真集であることです。
写真集ですから字は書いてありません。でも、製本してありますから、書物ではあります。
一冊目の作者はダイアン・アーバス(1923-71)、タイトルはRevelations、日本語にすれば「啓示」という意味です。
これは彼女の死後三十年たって、ほぼ全ての写真集を集めたもので、その全体像が理解できます。彼女はファッション雑誌の写真家としてデビューしたのですが、社会の中でマイノリティとして生きてきた人たち、サーカースの芸人やヌーディストやトランスベスタタイト(異性の洋服を着る趣味の人)、それから表面的には普通に見えるけれども、何か不思議で、異常にも感じられる人たちの写真をとるようになります。
最後の写真集Untitledで彼女が取り上げたのは、知的障害者施設で暮らす女性たちのポートレートです。
お祭りでお面をかぶったり、花飾りのある帽子をかぶって笑う姿など。その笑顔は素敵なのですが、彼女たちを包む寂しげな雰囲気のほうが強く感じられます。
合理的に説明できない、解釈しきれない、割り切れない部分のほうが社会にはたくさん残っていることを彼女は伝えたかったのではないかと思います。写真家ですから、それを言葉で表現するのではなく、イメージで示しています。
ついでに述べておくと、彼女の評伝(「炎のごとく : 写真家ダイアン・アーバス」)は日本語にも翻訳され図書館にも
あります。
もう一つは、彼女はこの写真を取り終えて、自殺しました。

 
 
もう一人の写真家は日本人の井上廣子さん。90年代から注目されるようになってきたアーティストです。
写真集のタイトルはInside-Outです。そこにある写真のほとんどは、人気のない部屋の中から窓越しに、外の風景が写っています。
窓の外に見える木、外のぼんやりした光が強調されたもの、廃墟の室内から向こう側にある壁しか見えない窓、暗い室内と明るい外の対比など、眺めているうちに、部屋の中にかつていた人たちが窓の外を眺めていた視線に自分の視線が重なっていることに気がつきます。
後書きを見ると、その窓は、日本の精神病院の窓、海外のサナトリウム、少年刑務所、ナチスの強制収容所の窓でした。そこに今はいない人たちの視線、痕跡が再現されています。写真家が他者理解を作品にすると、こうなるのだと思います。
この二冊に共通するのは、女性の写真家のしなやかな感受性です。その感受性がどのようにマイノリティと寄り添おうとしているのかが心地よいです。
言葉で読む以外にも、問題を捉えるためには、まず感性を磨くことも大事です。

「はてしない物語」ミヒャエル・エンデ

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社会福祉学部 社会福祉学科 准教授 湯原 悦子

 
 
 
この本に初めて出会ったのは高校生の時でした。
私は作者のミヒャエル・エンデが好きで、彼の代表的な作品「モモ」のファンでもあったので、きっとこの本も面白いだろうと思って読み始めたのが始まりです。
そして…今は私にとって、「忘れられない一冊」になりました。
タイトルは「果てしない物語」です。
ミヒャエル・エンデ作、上田真 子・佐藤真理子訳、岩波書店から出版されています。赤い布の装丁で、表面には2匹の蛇から成る輪が織り込まれています。この装丁そのものが、ストーリーの一部を形作っています。
この本は、どこにでもいるような気の弱い少年が主人公です。ファンタジーの世界を旅し、友達の大切さ、家族の大切さ、そして人間にとって最も大切なものとは何かについて気付いていきます。私は特に、少年がファンタジーの世界で力を失った後のストーリーが好きです。一人ぼっちになり「仲間が欲しい」、誰か自分を愛してほしい、そして愛する人を見つけたい…。
少年のたどる軌跡、出会いと挫折、そして回復のプロセスは、この先、人に関わる仕事をしていきたいと願う学生の皆さんにとって参考になることでしょう。

「タオのプーさん」ベンジャミン・ホフ

2011年1月11日

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子ども発達学部 心理臨床学科 教授 中村 信次

 
 
 
プーさんや、コブタ、トラーなど、おなじみ「クマのプーさん」の登場人物(登場動物?)の言葉や行動から、老荘思想という中国の古い哲学に入門しようという本です。
“タオ”という言葉は、もともと中国語で“道”という意味で、道教やその基になった老荘思想のことを西洋ではタオイズムと呼びます。それで、“タオ”の言葉を語るプーさん、タオのプーさんということです。
#ちなみに、大学時代の友人で中国哲学が専門の人間がいて、そいつによると、筆者の
#老荘思想の解釈には、西洋人にありがちな偏りが見られるということでしたが、そん
#なことはこの本の価値とはまったく無関係です。
全編を通して繰り返されるテーマは、「ゆっくり、あるがままに生きればよい」というものです。
最近では、さかんに「がんばらない生き方」ということが言われるようになりましたが、この本が出版されたのはバブルの真っ只中の頃で、とにかくみんなががむしゃらに生き急いでいたような状況の中で、この本のメッセージは際立ったものでした。
私自身は、この本が出版された直後、大学生の頃に読んだのですが、その時に日常の生活で知らず知らずのうちに蓄積されていた背中のこわばりが、スッと溶け出していくように感じたことをまだよく覚えています。
これ以上私の言葉でこの本を紹介しても、あまり意味がないのかもしれません(言葉を変えてしまうと、本の雰囲気が伝わりにくくなるかと…)。
興味を持ってもらえた人は、ぜひ実際に読んでみてください。続編に、「タオとコブタ」という本があります。同じくお勧めです。
最後に、表紙でプーさんがうたっている詩を紹介します。これだけでも、素敵な本だとわかってもらえるのではないでしょうか…
見てのとおり / ぼくはぼく / きみはきみ
でも きみが / きみにできること すれば
きみは 道を見つけ
道は きみについていく

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