「母親というものは」葉祥明

2011年2月8日

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図書館課 職員 古澤 紀子

 
 
 
「私の一冊」は、葉祥明の詩集『母親というものは』です。タイトルに惹きつけられて思わず手に取ってしまうのは、“母親”という言葉の響きがもつ吸引力によるものかもしれません。“母親”・・・。暖かく心地よくそしてとても切ない言葉の響きです。
著者、葉祥明は画家であり、詩人であり、絵本作家です。彼の数々の作品から発せられるメッセージには、家族愛をテーマにしたものも多く、淡く柔らかな水彩画とともに私たちの心に静かにそっと語りかけてくれます。
この本のタイトルにもなっている見開き最初の一編の詩「母親というものは」の中に著者自身の母が、そして私自身の母がいると感じます。
  母親というものは
母親というものは無欲なものです
我が子がどんなに偉くなるよりも
どんなにお金持ちになるよりも
毎日元気でいてくれることを
心の底から願います
どんなに高価な贈り物より
我が子の優しいひと言で
十分すぎる程幸せになれる
母親というものは
実に本当に無欲なものです
だから
母親を泣かすのは
この世で一番いけないことなのです

真の愛情とは無欲でありたいと思うことではなく、無条件に無欲そのものなのです。母親の愛情にはかないません。普段は空気のようにその存在が当たり前だった母親について何かをきっかけにして、人は一生のうちに一度は深く見つめ直す時が必ず来るものですが、私にとってのその時は、人生の節目の年に差し掛かった時、大病で倒れ介護を必要とする身体になった母親と対峙した時でした。
昨日まで楽しく会話をしあえた母とのひと時が、過去の想い出となってしまうなど思いもよらぬ出来事に、ただただおろおろするだけでした。その時、本書に出会って、母から受けた恩について考える機会とともに母親の無欲な愛情に感謝し、その恩に応えたい想いに突き動かされました。
本書は、どのページをめくっても母親からのあふれんばかりの愛が満ち溢れています。
けれど、著者の根底に流れている「父母の恩重きこと天の極まり無きが如し」と頭ではわかっていても、普段は空気のような存在であった母親の愛情は、「己生ある間は、子の身に代わらんことを念い、己死に去りて後には、子の身を譲らんことを願う」(『父母恩重経』)無償の愛だったことを今一度痛切に気付かせてくれる一冊です。
どのような形であれ、一生の中に自分の人生を変える運命の出会いが必ず訪れます。それは、人との出会いから本へ、そして本から人に帰っていきます。
最後に、あとがきに添えられた言葉を記します。
「母と子は、人間関係の原型で、互いに特別な絆で結ばれています。母親の人生に於ける影響力は、計り知れません。そういう意味では、母親に感謝できる人は、幸いです。どんな人生の困難にも耐え、そして乗り越えられる「力」を十分与えられているからです。その「力」こそが、母親だけが与えることのできる「無償の愛」なのです。」
勇気と希望をもらい、そして母の「無償の愛」に感謝しながら。

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