2014年12月12日(金)、日本福祉大学知多半島総合研究所 CSVフォーラムで、知多半島総合研究所の地域・産業部部長で財政学と地方財政の専門家でもある鈴木健司経済学部准教授が、パネルディスカッションのコーディネータを務めました。知多半島総合研究所は、1988年に設立され、知多半島是延滞の歴史・文化・産業・生活などを総合的に調査・分析・研究し、その地域の特色や、発展の経過を明らかにしています。
この日、知多半島総合研究所の地域・産業部の主催で行われたCSVフォーラムは、「地域にある共通価値の再発見と創出〜企業と地域を結びつけるCSV〜」というテーマで開催されました。CSV(Creating Shared Value)とは、共通価値の創造のことで、企業の利益を生み出す事業活動が地域の問題を改善して社会価値を高めることに着目し、企業と社会が互いの共有価値で結びついているという考え方です。
第一部 基調講演では、脇坂 光氏(キリン株式会社 CSV本部CSV推進部 企画担当主査)が、「CSRからCSVへ、企業と地域の共有価値」のテーマのもと講演され、キリン株式会社での事例をもとにCSVについての理解を深めました。
CSR(Corporate Social Responsibility)とは、「企業の社会的責任」のことで、これまで法令順守であったり、リスクマネジメントや内部統制を整えることで信頼のおける企業となるといった、狭い範囲で定義される傾向にあった。キリグループでは、さらに踏み込んで、企業市民として企業理念に沿った商品やサービスなど、事業活動そのものによって、「社会課題の解決」に貢献することをめざしています。6つのテーマを設け、3つのアプローチによってCSVを実践します。コンプライアンスのテーマとして「公正な事業慣行」「人権・労働」、サステナビリティのテーマとして「環境」「食の安全・安心」、キリンならではのテーマとしては「人や社会のつながりの強化」「健康の増進」に取り組んでいます1。
CSVは、社会的価値と経済的価値を両立させる競争戦略であり、長期的な企業価値の向上を図ることが目的となっているため、利他的な事業ではなく、あくまでも未来の持続可能な市場づくりのための投資として性格が強いのが特徴である。したがって、すべての社会課題に適応されるものではなく、企業のもつブランド価値をより高める取り組みが行われる。だからこそ、積極的に地域や社会と協働することで積極的に価値を創造していくことができるといえる。
第2部では、「企業が取り組む地域貢献とCSV」というテーマでパネルディスカッションが行われた。山田 厚志氏(株式会社山田組 代表取締役)、戸成 司郎氏(住友理工株式会社 CSR・社会貢献室長 NPO法人中部プロボノセンター代表理事)、池田 美恵子氏(知多信用金庫 企画部 地域貢献部 課長)をパネリストに迎えて、コーディネータの鈴木健司准教授の司会で始まりました。
講演を真剣に聴く、経済学部2年牧川さんと、中根さん(地域研究プロジェクト はんだプロジェクト所属)
まず始めに3人のパネラーから地域貢献の実践報告が行われた。株式会社山田組は、名古屋市で公園整備などの公共事業の受託を主な事業とする会社である。山田代表取り締まりの「公共事業はエンドユーザーであり、発注者でもある市民のニーズに応えていくことがそのまま社会課題の解決となる」というのが印象的でした。「CSV」という言葉が生まれる前から、地域に根差した企業として地域への貢献活動(なごや環境大学共育講座の開講、都市内農業による地域、地域防災大会の開催、出前講座による地域との絆づくり)に取り組んできており、これからは、企業も地域課題の解決にあたる「公の一員」ということを意識して、「自助」、「共助」しそして、「共助と官助の和=公助」によって支えられる社会になっていくことが必要であるとお話いただきました。その上で、CSVとは、「企業と地域が「便益」を分かち合う仕組み」であると考えていらっしゃるそうです。
次に、東海理化株式会社の戸成氏からは、CSVを価値創造型CSRとしてCSRを3つにカテゴライズした上で、実践事例を紹介していただきました。まず、コンプライアンス型のCSRとは、法令順守など社会に迷惑をかけないということ。2つめは、共存型CSRで、社会と共存できる企業を目指すもので、地域社会との持続可能な発展が主な内容です。そして、3つ目の価値創造型のCSRとは、社会にポジティブ・インパクトを与えることができる企業を目指すものです。例えば、環境面では、CO2を排出するのではなく、CO2を吸収できるように植林などを通じて森林保全を目指すといった内容です。「ブランドづくりに貢献しないものは社会貢献ではない」との強い意志をお持ちで、自社の事業を通じて社会的価値を創造することを本気で考えています。日頃から、積極的に社員が地域にかかわることで、社会感度を高まり、社会課題を捉える目が養われることで始めて、事業を通して社会課題の解決につながるそうです。
最後に、知多信用金庫の池田氏からは、地域の金融機関としての役割をお話していただきました。まず、信用金庫は、法的に貸し出し先が中小企業に限定されており、また活動地域も限定されています。このような背景から、信用金庫の預貸率(金融機関の預金残高に対する貸出残高の割合)が年々減少してきており、全国の信用金庫の預貸率は、1998年に70%を超えていたのが、2014年には50%近くまで減少してきています2。このような現状を受けて、知多信用金庫は、「ソーシャル・ビジネスサポート愛知」に参画することで、社会課題を解決するソーシャル・ビジネスやコミュニティビジネスの主体を育てることに積極的に取り組んでいくそうです。
知多信用金庫は、「夢サポート」を通じて、毎年総額1000万円を地域に貢献する団体や個人に助成してきました。すでに10年を越えており、これまでに1億円を地域に投資することで、この地域における社会的価値を創出してきました。今後は、その効果を検証し、さらにしっかりと地域金融機関の役割を果していくことを考えていらっしゃいます。
この後、鈴木先生からは、市民の視点にたって、「どうすれば企業と上手く連携できるのか?」といった質問が投げかけられ、「ただ○○のために取り組みをしたいと思いをぶつけるのではなく、何を解決するか(What)、どう解決するか(How)、社会がどう変化するか(Impact)を明確にすると、企業としてもかかわり方を具体的に考えることができる」といった議論が行われました。
大学としても、大学の資源をいかに活かし、活かされて、地域に価値を創造していけるかということは、重要なテーマであると感じました。人を育てるという点で、学生も地域の方も、企業も協働の場をつくっていくことの大切さを改めて考えさせられました。
1. キリン株式会社ホームページ CSV活動 参照
2 コミュニティ・ユース・バンクmomo 『お金の地産地消白書2014』 参照